※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
【リンク】
東京医科大学病院 渡航者医療センター
=====================================================
海外医療通信 2022年2月号
海外感染症流行情報 2022年2月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
世界的に増加していたオミクロン株の感染者は1月末をピークに減少しています(WHO Corona virus disease 2022-2-22)。ただし、東アジアや東南アジアは2月にピークを迎えており、死亡者数も増加傾向にあります。オミクロン株の流行当初はBA.1と呼ばれるタイプが主流でしたが、次第にBA.2というタイプが増えてきています。BA.2はBA.1より感染力がやや強いものの、重症度やワクチンの効果はあまり違いがないようです(WHO statement 2022-2-22)。
日本でオミクロン株発生にともない強化されていた水際対策が3月から緩和されます。入国前の検査、入国時の検査、入国後の健康監視という流れは今までと同じですが、健康監視期間が入国後の検査で陰性なら短くなります。またワクチンの3回接種者については健康監視の緩和措置がとられます。詳細は厚生労働省検疫所の下記のホームページをご参照ください。入国後の自宅等待機期間の変更等について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
(2)全世界:季節性インフルエンザの流行
2月になり北半球の温帯地域ではインフルエンザの流行がほとんどみられていません(WHO Influenza 2022-2-21)。北米やヨーロッパでは今年の1月にA(H3N2)型の患者数がやや増加しましたが、2月は減少しています。一方、中国ではB型の患者数がやや増加しています。新型コロナの流行が発生してから、インフルエンザの大きな流行は2シーズン連続してみられない状況です。
(3)アジア:台湾でA型肝炎患者が増加
台湾では今年最初の6週間でA型肝炎の患者が28人確認されました(Outbreak News Today 2022-2-17)。前年の同時期に比べて2倍以上の数になっています。患者のうち18人はタイからの労働者でした。A型肝炎は経口感染するため感染リスクが高く、流行地域に滞在する際には短期間であってもワクチン接種が推奨されます。
(4)アジア:中国での鳥インフルエンザ患者発生
中国では今年もH5N6型の鳥インフルエンザ患者発生が続いています。この1か月では2名の患者が広西省と江蘇省で発生しており、いずれも重症です(香港衛生局CHP 2022-2-15)。今年の累計患者数は5人で、H5N6型の患者が初めて確認された2014年以来では67人になります。
(5)アフリカ:マラウイで野生株のポリオ患者発生
東アフリカ・マラウイの首都リロングウェで、2021年11月に3歳女児のポリオ患者が発生しました(WHOアフリカ事務局 2022-2-17)。この患者から検出されたウイルスは1型の野生株で、中央アジアのパキスタン起源のウイルスとみられています。アフリカでは2020年に域内での野生株によるポリオが根絶されたことを宣言しています。マラウイでも1992年以来、ポリオ患者が発生していませんでした。
(6)ヨーロッパ:英国でラッサ熱患者が発生
英国でラッサ熱患者が3人発生しました(WHO 2022-2-21)。最初のケースは2021年の年末に西アフリカのマリに渡航し、そこで感染し英国帰国後に発症しています。この患者の家族2人が英国内で感染し、そのうちの一人が死亡しました。英国でラッサ熱患者が報告されたのは2009年以来です。ラッサ熱は西アフリカで流行するウイルス性出血熱で、ウイルスを持つネズミの尿などから感染します。患者の血液や排泄物などから感染することもあります。西アフリカでは乾季(11月~5月)に流行することが多く、今年1月にはナイジェリアで例年より多い患者数が確認されています(WHO 2022-2-14)。
日本国内での輸入感染症の発生状況(2022年1月10日~2月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2022年 (niid.go.jp)を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2022年2月18日)000899276.pdf (mhlw.go.jp)を参考にしています。
(1)経口感染症:輸入例としてはアメーバ赤痢が1人、A型肝炎が1人発生しました。いずれもタイでの感染例でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:この期間中はマラリア、デング熱の輸入例は報告されませんでした。
(3)新型コロナウイルス感染症:2022年1月9日~2月5日までに3487人が輸入例として報告されており、前月(2114人)に比べて増加しました。このうち外国籍者は2387人(68.5%)でした。感染者の滞在国で多かったのは、米国616人(外国籍324人)、インド551人(外国籍491人)、ネパール385人(外国籍377人)、パキスタン308人(外国籍288人)、フィリピン251人(外国籍211人)、ブラジル174人(外国籍144人)でした。
今月の海外医療トピックス
皮膚に貼るワクチンの開発
昨年8月号の当コラムで「世界蚊の日」にちなみ、蚊を模倣した無痛性注射針の日本での研究についてお伝えしました。渡航外来では1度の受診でワクチンを複数本接種しますので、日頃から苦痛がないワクチンが出来ないものかと切望していたからです。昨年末、これに関連して大変興味深い発表がありました。「貼る日本脳炎のワクチン」開発に日本の研究者が成功し、世界的な医学雑誌ランセットに掲載されたのです。開発されたワクチンは、109個のマイクロニードルがついたシールタイプで、痛みはなく、さらに現在の皮下注射と比べ予防効果も高いそうです。日本脳炎はウイルスを保有する蚊に刺されて起こる重篤な急性脳炎で、死亡率が高く、後遺症を残すことも多い病気です。現在わが国では、日本脳炎ワクチンを定期接種として小児期に4回接種します。渡航外来では、過去の接種歴等を参考に、流行地へ渡航する成人にも接種しています。渡航外来で扱うワクチンの中には、経口投与のものもありますが、多くが皮下や筋肉接種で針の痛みを伴います。現代のテクノロジーで少しでも楽に、安全にワクチン接種ができることを益々期待しています。(助教 栗田直)
【参考】THE LANCET Microbe (Vol.3, ISSUE 2, E96-E104, FEBRUARY 01, 2022)
渡航者医療センターからのお知らせ
黄熱ワクチンの接種が毎日受けられます
当センターの黄熱ワクチン接種日が月曜日から金曜日までに拡大されました。また、従来は問診日と接種日が別でしたが、同日に受けることができます。黄熱以外のワクチンの同時接種も可能です。詳細は当センターのホームページをご覧ください。黄熱ワクチン|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)