新型コロナウイルスの水際対策が1日から緩和され、観光を除く外国人の新規入国が再開されます。
ただ、1日あたりの入国者数を制限する枠組みは残るため、希望者全員が入国できるまでには時間がかかることも予想されます。
政府は、オミクロン株への対策として、去年11月から強化していた水際対策を、1日から緩和し、観光を除く外国人の新規入国が、およそ3か月ぶりに再開されます。
ビジネス目的などの3か月以下の短期滞在者に加え、留学生や技能実習生などの長期滞在者は、受け入れ先の企業や大学などが事前にオンラインで申請し、ビザの審査を終えれば、入国できます。
ただ、厳格な検疫措置を維持する観点などから、1日あたりの入国者数を制限する枠組みは残り、検疫の人員強化も図りながら、段階的に引き上げが行われる見通しです。
1日から1日あたりの入国者数の上限は、当面、これまでの3500人から5000人に引き上げられますが、この2年間に在留資格の事前認定を受けながら来日できずにいる外国人は、最大40万人いると見込まれ、希望者全員が入国できるまでには時間がかかることも予想されます。
また、今回の水際対策の緩和では、入国後、原則7日間の宿泊施設や自宅などでの待機は3日目の検査で陰性が確認されれば、その後は不要となるほか、3回目のワクチン接種を終え、オミクロン株の広がりが見られない地域からの入国者は、待機措置が一切免除されます。
政府は、今後、感染状況に悪化の兆しがみられた場合は、再び対策を強める余地も残しつつ社会経済活動の回復に向けて、慎重に緩和を進めていく方針です。
空港手続き アプリで事前審査
水際対策の緩和で空港に到着する利用者が増えることが予想される中、国は、検疫所での手続きを事前に行えるようにする取り組みも進めています。
海外から入国する場合、これまで入国時に必要な誓約書や、出国前72時間以内の検査証明書などのチェックは空港で書面を確認して行っていましたが、アプリを利用して進めることができるようになります。
具体的には、「MySOS」というアプリをインストールし、日本に到着する16時間前までに必要な情報を登録しておけば、日本側で内容の審査を行います。
登録内容に問題がない場合、アプリの画面が緑色になり、空港に到着した後、検疫所の職員に緑色の画面を見せることで書類による確認の手続きを省略できるということです。
この取り組みは1日から、羽田空港(東京都)、中部空港(愛知県)、関西空港(大阪府)、福岡空港(福岡県)で利用できるということで、厚生労働省は成田空港についても近く利用できるように準備を進めたいとしています。
後藤厚生労働相「リスク対応 機動的に」
後藤厚生労働大臣は、記者会見で「入国者の増加に向け、事前にウェブ上で検疫手続きや審査を行える『ファストトラック』の運用を開始したほか、検疫所の職員の確保や業務の一部の外部委託など、さまざまな工夫を講じ、検疫体制の強化も図っている」と述べました。
そして「今後については、オミクロン株の科学的知見に基づき、内外の感染状況や入国需要の動向、検疫体制の整備・実施状況を総合的に勘案し、段階的に国際的な人の往来を増やしていく。新たな変異株が発生するなどすれば、しっかりとリスク管理を機動的に行っていく」と述べました。
ベトナムで訪日待つ技能実習生「早く日本で働きたい」
政府は、去年1月以降、一部の期間を除いて外国人の新規入国を原則として停止していて、技能実習生として日本で働くことが決まっていた外国人からは、今回の緩和に対して喜びの声が出ている一方、感染状況によっては再び入国が禁止されるのではないかという不安も聞かれました。
技能実習生として金属加工の会社で働く予定だという20歳のベトナム人の男性は、「日本人から経験、知識、技術、文化、習慣を学び、ベトナムに帰国して日本語をいかした仕事に就くか日系企業に就職したいと思います。これまで1年半、入国できる日を待ち続けてきました。生活が厳しく日本に行くのを諦めようかと何度も考えました。3月からの入国規制の緩和は、当然ながらうれしいです」と話していました。
一方で、去年11月に一時、水際対策が緩和されたものの1か月もたたずに新規入国が停止されたことに触れ「不安もあります。オミクロン株の感染拡大で再び入国禁止になり、失望しました。こうしたことが2度と起きないようせつに望んでいます」と話していました。
また、埼玉県の漬物工場で働く予定だという18歳のベトナム人の女性は、「科学技術のレベルが高く、発展している日本のことを知り、日本で勉強したい、仕事をしたいと思うようになりました。9か月待ち続けていますが、両親は体が弱く、畑の仕事しかできないので、苦労しています。今は実家で畑の仕事を手伝っていますが、経済的に余裕がありません」と話していました。
その上で、「感染対策のため、日本が外国人を受け入れていないことは理解しています。しかし、これが長引いてしまうと私のような技能実習生は生活の面でも将来の仕事の面でも、大きな影響を受けます。入国規制が緩和されると聞いて私と両親はとても喜びました。早く日本で働きたいです」と話していました。
ベトナム 歓迎の一方 さらなる緩和を求める声も
ベトナムは、近年、日本に多くの技能実習生を送り出していて、去年6月末時点で日本にいる技能実習生の半分以上をベトナム人が占めました。
新型コロナウイルスの感染拡大以降は、日本の入国制限などで多くのベトナム人が足止めされたため、日本で1日から水際対策が緩和され観光を除く外国人の新規入国が再開されることにベトナムでは歓迎する声が聞かれました。
このうち、日本に技能実習生を送り出している首都ハノイの企業では先週から、生徒への日本語の授業を再開し、送り出しに向けた準備を始めています。
生徒の男性は「2、3年待っても日本に行くことができていない人もいるので、入国が再開するというニュースを聞いてとてもうれしいです」と話していました。
一方、入国制限の長期化に伴い、日本に行くことを諦め地元で就職する人も相次いでいます。
背景には日々の生活を支えるため収入の確保を優先させざるを得ないことなどがあります。
こうした事情に配慮してハノイにある企業では、日本への渡航を実現させようと、日本が入国を停止している間も収入が得られるよう生徒に臨時の仕事を紹介してきました。
配達員の仕事を紹介された33歳の男性は「日本への渡航を待っているうちに気持ちが落ち込んで、渡航を諦めることも考えましたが、企業が紹介してくれた仕事で収入を得ることができ、日本に行く夢を追い続けることができています」と話していました。
企業の代表は「すでに多くの人が日本を諦め、台湾などに目的地を変えました。日本が、これまでのように入国停止を繰り返したら、生徒や企業、それに私自身の日本への信用も、失っていくでしょう。日本政府が、継続的に外国人を受け入れることを願っています」と話し、入国制限のさらなる緩和を求めました。
技能実習生が働く会社“いつ来日できるか見通し示して”
技能実習生が働く会社の中には、実習生は欠かせない存在だとして早期の入国を待ち望むところもあり、いつ来日できるのか見通しを示してほしいという声も出ています。
埼玉県の金属工事会社では、さいたま市の監理団体を通じて実習生を受け入れていて、30人の社員のうち、13人がベトナムからの技能実習生です。
実習生は現場で他の社員を率いたり、取引先の大手建設会社との打ち合わせに参加したりするなど会社を支える存在になっているということです。
一方、実習生のうち4人が家族の事情などで一時的にベトナムに帰国した後、日本の入国規制で来日できない状態が続いているということです。
三浦金属巧業の三浦涼社長は「技能実習生は絶対的に必要な存在で、とりわけ優秀な社員については人種や国など考えずに絶大な信頼を置いています。建築業界は高齢化していて若手が入らないので、日本人だけでは厳しいのが現実です」と話していました。
この会社では、全国の都市部で再開発が進んでいることから、ことし5月以降の工事が増えているということで、人手が不足するなか、実習生の来日の時期が気がかりだといいます。
三浦社長は「2、3年先の工事の相談もあり、仕事量に対して人手が足りなくなってきています。新しい技能実習生に来てもらおうと思っても、現場が求めている時期の9か月前には面談を始めなければ間に合いません。これから手続きを進めても来られるのがいつになるのか見通しが立たず、どう行動したらいいのかわからず不安です」と話していました。
専門学校 留学生入国のビザ申請手続きに追われる
新型コロナウイルスの水際対策が1日から緩和され、観光を除く外国人の新規入国が再開されることを受けて、宮崎市の専門学校では留学生の受け入れに向けた準備に追われています。
宮崎市の「宮崎情報ビジネス医療専門学校」では、日本語科で留学生を受け入れていますが、おととし4月以降、ベトナムやネパールなど9か国からおよそ180人の留学生が来日できない状態が続いています。
今回の緩和を受けて、職員たちは留学生が入国する際に必要なビザの申請手続きに追われています。
学校によりますと、来日できない留学生にはオンラインで授業を行ってきましたが、なかなか入国できない状況に、来日を取りやめる留学生も出て、経営面でも大きな影響を受けていたということです。
学校では4月までに希望する学生全員の入学を目指したいとしていますが、現時点でいつまでに全員が入国できるかわかっていません。
学校を運営する「宮崎総合学院」の山中鉄斎 国際事業推進本部長は「学生から『いつまで続くのか』という声が多くあがっていたので、できるかぎりのサポートをしていきたい」と話していました。
佐賀の日本語学校 今月生徒ゼロに「いつまで持つか」
佐賀県鳥栖市の日本語学校「弘堂国際学園」では、今月16日に在校生28人全員が卒業し、生徒の数はゼロになります。
1日あたりの入国者数の上限が5000人にとどまることや、ビザの取得希望者が増え、交付に時間がかかることも予想されることから、この学校では「新たな留学生が入学するまでに数か月かかるのではないか」としています。
弘堂国際学園の山本由子校長は「いろんな学校が閉校に追いやられていて、私たちも体力がいつまで持つのか」と話し、新たな留学生が入学するまで経営を継続できるか心配していました。
技能実習生の受け入れ団体“懸念される点も多い”
技能実習生の受け入れを担う団体では、水際対策の緩和を歓迎する一方、長期間、実習生が入国できなかった影響が出始めていることや今後の入国手続きがスムーズに進められるか不透明なことなど懸念される点も多いといいます。
さいたま市の監理団体では、毎年200人以上の実習生を受け入れ、配属先の建築や食品加工の企業などで働いてもらっていました。
しかし、これまでの入国制限で、およそ250人が、採用が決まっているにもかかわらず、ベトナムなど自国での待機を余儀なくされています。
この団体では、水際対策の緩和が伝えられて以降、実習生を送り出すベトナムの会社との間で入国の準備などに関する打ち合わせを続けています。
ただ、これまでに20人以上が生活が維持できないなどとして入国の断念を伝えてきたほか、すでに外国人を受け入れている韓国やドイツなどに行くケースも増えているということです。
また、今後、スムーズに日本に入国ができるのかという実習生や家族からの問い合わせも相次いでいるということです。
今回の緩和では1日あたり5000人という入国者の上限もあることから、監理団体では、必要な手続きについて準備を急ぎ、早期の入国につなげたいとしています。
関東スタッフ協同組合の大築陽子代表理事は、「自国で待機している実習生たちは生活がかかっていて、危機感を抱いているので、入国規制の緩和は歓迎し、期待しています。ただ、入国の順番もあるし監理団体も多くあるなかでどこまで実習生を入れることができるか手続きの部分は不安です」と話しています。
また、「韓国や台湾、ヨーロッパの国でも人材不足は間違いなくあり、実習生を取り合っているのが現状だと思います。日本は高齢化による人材不足が続き、あらゆる職種で外国人の力を借りなければいけないので、これだけ長期間外国人が入国できないのは国内の企業にとってもマイナスだと思います」と話していました。
より