※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外感染症流行情報 2020年12月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルスの累積感染者数は12月下旬までに約7800万人、死亡者数は約170万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2020-12-23)。1か月前に比べて感染者数は約2000万人増えており、北米、ヨーロッパ、西太平洋、アフリカでの増加が顕著になっています(WHO Corona virus disease 2020-12-22)。最近の米国では、毎日20万人前後の感染者が発生し、死亡者数も毎日2000人以上にのぼっています。ヨーロッパでも一時、感染者数が減っていましたが、12月に入り再び増加傾向にあり、ドイツやイタリアでは死亡者数が増えています。西太平洋では日本、マレーシア、フィリピン、韓国で感染者の増加がみられています。
英国では11月からイングランド南東部を中心に変異株(YUI202012/01)の流行が拡大しており、感染力は従来のウイルスに比べて70%高いと報告されています(WHO outbreak news 2020-12-21)。英国以外ではデンマーク、オランダ、オーストラリアなどで変異株が少数ですが検出されており、今後、世界各地に拡大することが懸念されています。なお、新型コロナウイルスのワクチンは、米国やEUなどがファイザー社とモデルナ社のワクチンを緊急承認し、接種が開始されました。このワクチンが変異株に効果があるか否かについては現在調査中です。
(2)北半球:インフルエンザの流行
12月も北米、ヨーロッパ、東アジアでは、インフルエンザの流行がほとんど報告されていません(WHO Influenza 2020-12-21)。日本でも、12月上旬の定点当たりのインフルエンザ報告数は第50週が57例と微増していますが、全般的に流行は低レベルです(国立感染症研究所 2020-12-7~12-13)。
(3)アジア:フィリピンでHIV感染者が増加
フィリピンでは1984年以来、HIV感染者およびエイズ患者が8万人報告されています(Outbreak News Today 2020-12-1)。今までは感染者の増加が緩やかでしたが、今年は700人以上の感染者が報告されており、増加傾向にあります。患者の96%は男性で、マニラ周辺での感染が4割を占めています。
(4)アジア:トリインフルエンザ患者の発生状況
WHOは2020年10月下旬~12月上旬のヒトのトリインフルエンザ発生状況を発表しました(WHO outbreak news 2020-12-9)。H5N1型はラオスで1例、H5N6型とH9N2型は中国で各1例報告されています。H5N1型は2003年から17か国で862人(455人死亡)が報告されていますが、2016年以降は患者数が大幅に減少しました。H5N6型は2014年から中国で25人報告されています。
なお、鳥類でのトリインフルエンザ流行はアジア(日本、韓国など)で発生しているとともに、ヨーロッパ(ドイツ、デンマークなど)でも8月以降に561例確認されました(ヨーロッパCDC 2020-12-11)。
(5)アジア:東南アジアのデング熱流行は鎮静化
東南アジア各国のデング熱患者数は12月になり減少しています(WHO西太平洋 2020-12-3)。今年はほとんどの国で昨年より患者数が減少していますが、シンガポールは3万人以上の患者数となり、過去20年で最大規模の流行となりました。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2020年11月9日~2020年12月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2020.html
新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(12月16日)を参考にしています。出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000705902.pdf
(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌が1人、赤痢アメーバが2人でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は2人で、インドネシアとベトナムでの感染でした。
(3)新型コロナウイルス感染症:11月8日~12月5日までに347人が輸入例として報告されています。このうち日本国籍は124人で、滞在国で多かったのは米国98人、インドネシア57人、フィリピン30人、ネパール20人でした。なお、変異株の発生している英国滞在者はこの期間で3人でした。
旧長濱検疫所の存在
数年前、年に一度の横浜検疫所一般公開日に、敷地内の旧長濱検疫所を見学しました。長濱検疫所は、長浦消毒所を引き継いだ日本の検疫施設最古の遺構で、コレラ大流行中の明治28年に設立されました。建物は老朽化していましたが、思いもよらぬクラッシックで高級な様子や、当時の貴重な検疫資料を興味深く見学しました。現在残るのは停留所1棟のみですが、当時は海に面した約1万4千坪の広大な敷地に38の棟があり、14の停留室、食堂や談話室、浴場、消毒施設、伝染病院、火葬場までを備えた完全な検疫所でした。
そんな歴史的に貴重な旧長濱検疫所と資料が、横浜検疫所の移転計画に伴い、現在存続の危機にあるそうです。先月11月からNPO団体が保存を呼びかける署名活動を開始しました。残念ながら、コロナ前には注目されることが少ない建造物であったと思います。しかし今、コロナの時代を生きる日本にとって、海外との往来が始まった当時の検疫の貴重な歴史建造物を少しでも長く残し、島国日本の過去の経験や知恵を多くの人が知ることも、後世の安全な国づくりの一助となると考えます。(臨床助教 栗田直)
参考:https://www.forth.go.jp/keneki/yokohama/museum/download/Panf.pdf
・渡航者医療センターからのお知らせ
(1) オンラインによるワクチン相談
渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを提供しています(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html
(2)連載コラムのご紹介
渡航者医療センターの濱田篤郎部長が下記のコラムを連載しています。新型コロナの流行状況や海外渡航者の健康対策などが解説されており、ご興味のある方は是非ご覧になってください。
・時事メデイカル・「新型コロナ流行の本質~歴史地理の視点で読み解く~」(毎週連載)
https://medical.jiji.com/column4/37
・メデイカルノートNew & Journal 「病で描く世界地図」 (隔月連載)
https://medicalnote.jp/nj_articles/201223-001-LN
日刊トラベルビジョン様より http://www.travelvision.jp/