※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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海外医療通信 2020年11月号
・海外感染症流行情報 2020年11月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルスの累積感染者数は11月下旬までに約5900万人、死亡者数は約140万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2020-11-25)。1か月前に比べて感染者数は1700万人増えており、北米やヨーロッパでの増加が顕著になっています(WHO Corona virus disease 2020-11-24)。ヨーロッパでは都市封鎖などの強い対策がとられた効果で、新規感染者数は少しずつ減少傾向にあります。米国では最近1週間で約110万人の感染者が発生し、イリノイ州、テキサス州、カリフォルニア州で感染者数が多くなっています。これに伴い死亡者数も増加しています。中東でもイラン、パキスタンなどで感染者数の増加がみられます。今後、北半球の温帯では冬の到来とともに、感染者数がさらに増加することが予想されます。
新型コロナウイルスのワクチンについては、米国のファイザー社、モデルナ社、英国のアストラゼネカ社が第3相試験の結果を一部報告しました。いずれのワクチンも効果が高く、副反応も少ないとの結果で、米国やヨーロッパでの使用申請を近日中に行う予定です。
(2)北半球:インフルエンザの流行
北米、ヨーロッパ、東アジアでは、インフルエンザの流行がほとんど報告されていません(WHO Influenza 2020-11-9)。日本でも11月上旬の時点でインフルエンザの患者数は大変少なくなっています(国立感染症研究所 2020-11-16)。一方、南アジアのインド、バングラデッシュ、東南アジアのカンボジア、ラオスで患者数がやや増加しています(WHO Influenza 2020-11-9)。
(3)アジア:ラオスでトリインフルエンザ(H5N1型)の患者発生
ラオス南部のサラワン県でトリインフルエンザ(H5N1型)の患者が1人報告されました(WHO outbreak news 2020-11-17)。この患者は1歳女児で、10月中旬に発病し、その後、軽快しています。最近、サラワン県では家禽の間での流行が発生していました。ラオスでは2005年以来、3人のH5N1型の患者が報告されています。
(4)アジア:台湾でのデング熱流行
台湾の台北近郊で今年は70人のデング熱患者が発生しました(Outbreak News Today 2020-10-11)。このうち新台北での感染が48人、桃園が22人となっています。今年は台湾北部で雨量が多く、この影響で媒介蚊が増えた模様です。
(5)アフリカ:コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行が終息
コンゴ民主共和国の赤道州で今年6月から発生していたエボラ熱の流行が終息しました(WHO outbreak news 2020-11-18)。今回の流行は同国で11回目になり、130人の患者(疑いを含む)が発生し、このうち55人が死亡しました。
(6)南米:ブラジルでの麻疹患者の増加
ブラジルでは今年になり10月上旬までに麻疹患者が1万6000人発生しています(Outbreak News Today 2020-10-11)。とくにリオデジャネイロやサンパウロなどの都市部で患者数が多くなっています。新型コロナ対策により小児への麻疹ワクチンの接種が滞っている影響もあるようです。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2020年10月12日~2020年11月8日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。新型コロナウイルス流行にともなう渡航制限および入国制限により、この期間中の輸入感染症の事例は大幅に減少しています。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2020.html
(1)経口感染症:輸入例としては赤痢アメーバが5例で、感染国は全例が東南アジアでした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが1例(ナイジェリアで感染)報告されました。デング熱はこの期間に報告されませんでした。
(3)その他の感染症:寄生虫が原因となる単包条虫症が1例報告されました。モンゴルで感染した事例です。本症はイヌの糞などに排泄される虫卵の経口摂取で感染し、重篤な肝障害を起こします。
・今月の海外医療トピックス
子宮頸がんワクチンと日本
子宮頸がんの多くは、性的接触によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染で発症します。日本では毎年約1万人が発症し、約2800人が亡くなっています。HPVの感染はワクチンによる予防ができ、世界80か国以上で公費接種されています。男性にも効果があるため、男性接種推奨国もあります。日本では小学6年~高校1年生の女性は公費接種可能ですが、接種率は1%未満になっています。HPVは複数の型があり、米国などでは9つの型を予防し90%以上の子宮頸がんを予防できる9価ワクチンが男女対象に公費接種されています。現在、日本で公費接種されているのは2価ワクチンで、頸がんの60~70%の原因となる2つの型を予防するものです。日本は2020年7月に9価ワクチンが国内承認されたばかりで、公費接種はできません。11月17日、WHOは頸がん撲滅に向け、2030年までに15歳以下の女性のHPVワクチン接種率を90%にする目標を掲げました。グローバル社会における日本の状況を、HPVワクチンを通して考えて頂けたらと思います。(医師 栗田直)
〈参考〉WHO:https://www.who.int/news/item/17-11-2020-a-cervical-cancer-free-future-first-ever-global-commitment-to-eliminate-a-cancer
・渡航者医療センターからのお知らせ
(1) オンラインによるワクチン相談の開始
渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを提供しています(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html
(2)海外在留邦人向け新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口のお知らせ
渡航者医療センターでは海外在留邦人向けに「新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口」を開設しています。海外在留邦人の方ならどなたでも、電子メールによる相談が受けられます(無料)。詳細は下記をご覧ください。
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200421.html