※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院 渡航者医療センター
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海外医療通信 2021年11月号
海外感染症流行情報 2021年11月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルスの感染者数は11月になりヨーロッパなどで増加傾向にあります(WHO Corona virus disease 2021-11-23)。とくにドイツや英国で感染者数が多く、米国でも北部の州などで感染者が増加しています。アジアでは韓国で流行の再燃がみられています。こうした北半球の温帯で起きている流行は、気温の低下やワクチン効果の減弱が原因と考えられています。多くの国でワクチンの追加接種が開始されているとともに、社会生活の制限を再開している国もあります。なお、現在、世界的に流行している新型コロナウイルスは今年4月にインドから拡大したデルタ株で、これに代わる新たな変異株は今のところ発生していません。
一方、日本では11月も新型コロナの感染者数が減少を続けており、社会生活の制限緩和も進んでいます。水際対策も11月8日から緩和が始まり、外国人の入国が許可されるようになりました。また、ワクチン接種者の入国後健康監視期間が最短3日に短縮されていますが、手続きが大変に複雑で、まだ利用者は少ないようです。水際対策強化に係る新たな措置|内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室 (corona.go.jp)
(2)全世界:季節性インフルエンザの流行
インフルエンザの流行レベルは全世界的に低くなっていますが、昨シーズンに比べると高い傾向にあります(WHO Influenza 2021-11-22)。米国ではニューメキシコ州などでA(H3N2)型の患者が増えています(CDC Flu view 2021-11-19)。ヨーロッパでもA(H3N2)型の患者が散発しています(ECDC 2021-11-16)。南アフリカでは8月末からB型とA(H1N1)型の流行が発生しており、11月に入りさらに患者数が増加しています(ECDC 2021-11-20)。
(3)アジア:WHOが中国の鳥インフルエンザの監視強化
WHOは中国で増加傾向にあるH5N6型の鳥インフルエンザについて、監視強化の必要があるとのコメントを発表しました(WHO 2021-11-19)。H5N6型の鳥インフルエンザの患者は、2014年から中国などで52人発生しており(26人死亡)、今年は中国で26人の患者が報告されています。最近の1か月でも湖南省や広東省で3人の患者が確認されました(ECDC 2021-11-20)。ほとんどの患者は市場などで生きた家禽から感染していますが、今後は患者から周囲の人に感染が拡大しないかの監視も必要です。
(4)アジア:インドでのジカウイルスの流行
インド南部のケララ州で11月初旬までに90人のジカウイルス感染症の患者が確認されました(ECDC 2021-11-13)。同州では今年7月に最初の患者が確認されていますが、合併症となる小頭症やギランバレー症候群の発生はみられていません。なお、北部のウタールプラディシュ州でも100人以上の患者が発生している模様です。
(5)アジア:東南アジアでのデング熱の流行
今年は東南アジア各国のデング熱患者数が例年よりも少なくなっています(WHO西太平洋 2021-11-18)。11月初旬までにマレーシアで2万人、フィリピンで6万人、ベトナムで6万人の患者が確認されており、いずれも昨年より少ない数です。シンガポールでは昨年、過去10年で最多となる3万人以上の患者が発生しましたが、今年は約4000人と大きく減少しています。
(6)アフリカ:コンゴでのエボラ出血熱の流行
コンゴ民主共和国の北東部で10月から発生しているエボラ出血熱の患者数は、1か月前から3人増えて8人(3人は疑い)になりました(ECDC 2021-11-20)。このうち6人が死亡しています。この地域では今年5月に流行の終息宣言が出されたばかりでした。
日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年10月11日~2021年11月7日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2021年 (niid.go.jp)を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年11月19日)000856943.pdf (mhlw.go.jp)を参考にしています。
(1)経口感染症:輸入例としては腸チフスが2人、アメーバ赤痢が4人発生しました。腸チフスはパキスタンとインドでの感染例でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが4人で、インド(2人)、パキスタン(1人)、ナイジェリア(1人)での感染でした。デング熱は1人でインドでの感染でした。
(3)新型コロナウイルス感染症:2021年10月10日~11月6日までに183人が輸入例として報告されており、前月(226人)に比べて減少しました。このうち外国籍者は100人でした。感染者の滞在国で多かったのは、フィリピン32人(外国籍23人)、米国18人(外国籍4人)、ネパール15人(外国籍15人)、英国9人、モンゴル8人、ロシア7人でした。
今月の海外医療トピックス
予防接種記録の重要性
医療機関では、新型コロナワクチン2回目接種の波が少し小さくなったところ、先月からインフルエンザワクチン接種の波が押し寄せています。そして先週、厚生労働省は、新型コロナワクチン3回目接種について情報発信をしました。コロナワクチン対象者の中には、他にも推奨すべきワクチンがあります。例えば60代以上の場合、インフルエンザの他、肺炎球菌や水痘帯状疱疹ワクチンが挙げられます。また、当センターで扱うようなトラベラーズワクチンの接種が必要な人もいます。わが国は、コロナワクチン接種の前後2週間、他のワクチン接種を原則不可としています。最近はこれまで以上にワクチン接種計画に難渋する事例、集団接種の場でのヒヤリ事例にも遭遇しています。本コラム2021年5月号でも一度ご紹介しましたが、私は最近改めて、成人予防接種記録手帳の重要性を実感しています。皆さんは行政が発行したコロナワクチン接種証明書をどのように保管・記録していますか?どうか成人予防接種記録手帳を活用のうえ、コロナ含めご自身の感染症予防状況を把握ください。必ず将来役立つことと思います。(助教 栗田直)
参考 成人用予防接種記録手帳 (niid.go.jp)
渡航者医療センターからのお知らせ
黄熱ワクチンの接種が毎日受けられます
当センターの黄熱ワクチン接種日が月曜日から金曜日までに拡大されました。また、従来は問診日と接種日が別でしたが、同日に受けることができます。黄熱以外のワクチンの同時接種も可能です。詳細は当センターのホームページをご覧ください。黄熱ワクチン|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)